カメラ映像を使用した人流のAI解析~長崎県での取り組み~
CACは、AIなどの最新のテクノロジーを活用して、社会やお客様が抱える課題を先取りして解決することを目指しています。
画像認識AIはそうした課題解決のために有効な技術の1つです。画像認識AIのうち、たとえば「顔」で認識する技術は高い精度で認識することができるようになってきました。一方、当社ではカメラ画像を使ったカウンティングAIの技術に取り組んでいます。この場合、認識するのは顔ではなく多くの「人」になり、性別や年齢層を判別し、後ろ姿からもカウントするため、さらに細かい精度を認識する技術が必要になります。
今回は、長崎県におけるCACのカメラ映像を使った人流解析の取り組みについてレポートします。
1.人流のAI分析:浜町アーケード街における歩行者通行量調査
当社では2019年の長崎拠点開設以降、長崎県をHCTech®の構成技術の実証フィールドの1つとしてターゲティングしています。とりわけ人物のトラッキングを行うソリューションは公共/準公共空間での活用も多く、自治体の協力を得て実証していくことが必要と考えていました。
そこで、人が密になる場所での人流をAI分析し、混雑度情報や人流情報として情報共有することを目指し、2021年、長崎市の協力を得て長崎県に対し「令和4年度Society5.0加速化補助金制度」に応募し、同年5月に申請事業が採択されました。
事業の概要について
当社が応募し、採択された事業は、「HCTech®を使用したデータ利活用型スマートシティの構築」をテーマとし、人流をAI分析してその結果を混雑度情報や人流情報として情報共有を行うものです。そこで、毎年実施していた歩行者通行量調査を計測地点の中で最も通行量が多い浜町アーケードにて、人手によるカウントに代えてAIによりカウントを行うことになりました。
歩行者通行量調査は中心市街地活性化法により、自治体によりまちの活性化の度合いを測るために行うもので、長崎市でも長年人手によるカウント方式で実施してきました。しかし、コストがかかることや猛暑時の作業などに課題があるのはもちろん、不慣れなスタッフがアサインされることが少なくなく、必ずしも精度が高いとは言えない状況で、商工会議所の担当者が見回りを1日3回実施するなど、無駄な工数がかかっていました。さらに、1年のうち2日程度の決まった日、決まった時間にしか行われていないため、マーケティングデータとして使用することはできないデータでした。
調査実施概要について
これらの課題を解決するために、今回の実証実験ではこれまで人手に頼っていたカウント方法をカメラ1台の画像からAIが分析することにしました。また人手によるカウントの代替手段になり得るかの確認も兼ねていたため、人手によって行っている通常の歩行者通行量調査と同様の要領での実施となりました。なお、調査スタッフはベテランスタッフ3名を配置して高い精度が出るようにしました。
人流分析の実施概要
当社が準備した器材は、カウンティング用カメラとAIエッジのみで、カメラは通常の防犯カメラと同様にアーケード支柱に固定し担当者が1名以上立ち会いました。また、トラッキング技術に加えて性別判定ができるプログラムを追加しました。その理由として、調査場所となった商店街では「買い物する人」がどの程度いるのかを知りたいと考えており、商店街の主な購買者である女性の人数を把握することが必要となったからです。

実施結果
AIによるカウントと人手によるカウントの差異や精度については、95%~97%程度という結果になりました。合計値でAIのカウントの方が多くなった理由として、①計測位置が若干ずれていたこと、②店舗前で行われていたイベントにより、往来の加算があったこと、が挙げられました。また性別判定については、結果は許容範囲に収まる誤差でした。
調査の評価
今回の実証実験はAIと人手のカウントとでどのくらいの誤差が出るものかを測るものでしたが、概ねAIのカウンティングの精度は合格点だったと言えます。
この結果については、長崎商工会議所からも一定の評価をいただいたことで、2024年度の歩行者通行量調査も同地点で行うことが決まりました。2年の間に性別判定モデルの精度も向上し、2年前の結果よりもさらに精度が高い結果が出るのではないかと期待されます。
2.佐世保市「まちなかウォーカブル推進事業」における
人流分析
事業の概要
佐世保市は、令和5年度から令和9年度の5年間にわたり、まちなかの空間デザインや公共空間の改修等を行うとともに、民間による公共空間利活用を促進することで居心地がよい空間づくりを実現するため、「まちなかウォーカブル推進事業」において社会実験に取り組むことになりました。市では、この事業を通して人々が集い、賑わいと癒しがあり、ゆっくりと過ごしたくなるまちづくりを目指しています。
人流分析の実施概要
事業効果を検証するため、人流・滞留時間の変化を分析することになりました。夜店公園通りで行われるイベントの実施前と実施中のカメラ映像から、AIを使った人流分析の実証実験を行うことになり、公益財団法人ながさき地域政策研究所(シンクながさき)から依頼を受けた当社がAI解析技術を使って実施しました。
AI解析用のカメラを指定場所1か所に設置し、当社のトラッキングAIにより人流データを1人単位で取得する方法をとりました。カメラで撮影できる範囲でボーダーラインを通過した人数(上り/下りor右/左)をカウントするとともに、指定した矩形領域内の人物をトラッキングしてユニークユーザーごとの滞留時間と時間断面(例:10時台)毎にどのくらいの人数が当該矩形領域内にいたかを集計しました。



結果
計測データは通常時とイベント実行時との通行量、滞留人数等の比較に活用され、イベント実施による人流の変化を測ることが出来ました。
CACでは2024年度も同様に佐世保市が行うイベントに合わせて、カメラ映像からAI解析を行うことになりました。実施事業に応じてカメラの設置場所を変更するなどの調整を行って実施しました。
まとめ
今回はカメラ画像を使ったトラッキングAIの取り組みについてレポートしました。
長崎市、佐世保市とも2回目の実施を行いましたが、性別判定や年齢層判定などの当社オリジナルAIモデルの精度も上がってきており、今後、高い精度での推論結果が出ることが期待されます。
当社ではこのトラッキングAIの解析技術を生かして、製造業での取り組みにも拡大しています。今後もAI技術を活用することで、社会やお客様が抱える課題を解決することを目指していきたいと考えています。