国際物流DX化をアジャイル開発で実現
― 老舗物流企業鴻池運輸とシーエーシーの挑戦 ―
2022 年4月、老舗物流企業の鴻池運輸株式会社は、海上輸出入業務のオンライン支援サービスをリリースしました。同社が推進する“国際物流DX”の一環です。開発は「アジャイル(スクラム)」で進め、この取り組みをサポートしたのが、シーエーシーでした。プロジェクトを牽引した両社のキーパーソンが、アジャイル採用の狙いと成果を語ります。
1.DXで「攻め」と「守り」のビジネスを加速
鴻池運輸株式会社は、1880年創業の総合物流企業です。「『人』と『絆』を大切に、社会の基盤を革新し、新たな価値を創造します」の企業理念のもと、物流だけでなく製造業界・サービス業界向けの請負サービスも展開しています。
2022年、「2030年ビジョン」に「技術で、人が、高みを目指す」と策定。併せて定めた中期経営計画(2023年3月期~2025年3月期)の重点事項「技術の活用とDXならびに協業による挑戦」の一環で国際物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進しています。
同社は以前から物流業務におけるICT 基盤強化とDXを推進し、業界に先駆けて輸出業務のオンライン見積もり支援サービス「K クイック」などを提供してきました。この狙いについて、鴻池運輸の久田哲郎氏は次のように語ります。
「物流業界は、他業界と同様に人手不足が深刻です。業務の効率化、自動化やお客様への価値向上を図る取り組みは、人手不足やコスト削減という課題解決にもつながります。つまり、『攻め』と『守り』は表裏一体であり、デジタルの活用は不可欠です。
この考えに基づき、新たなサービス開発にも積極的に取り組んでいます。2022 年4月に提供を開始した、海上輸出入業務のオンライン支援サービス「KBX(ケービーエックス)」はその1つです。顧客・業務管理基盤として利用するSalesforceの豊富な標準機能を活用し、情報の一元管理と拡張性を担保したプラットフォームを実現しました。
「お客様からの手配依頼や当社からの業務報告は、これまで主に電話やメール、FAXで行ってきました。紙ベースのやりとりはシステムへのデータ再入力が必要で、管理も煩雑です。配送状況など進捗の確認、報告にも時間がかかります。KBXは『見積もり』『手配依頼』『進捗確認』『手配完了』までの一連のフローをオンラインで完結できます」と鴻池運輸の上月勇人氏は説明しました。
2.アジャイル開発の立上げから推進までトータルにサポート
KBXは鴻池運輸にとって大きな意味を持つチャレンジでした。初めて本格的なアジャイル開発プロジェクトとしてSalesforce上に業務アプリケーションを構築することに挑んだからです。同社が、このパートナーに選定したのがシーエーシーでした。
「以前からITインフラ周りの相談やサポートを通じて取引があったため、今回の件も相談してみたところ、アジャイル開発の支援を展開していることを知りました。技術力が高く、人材や実績も豊富にあります。当社の文化や業務もよくわかっているため、シーエーシーにお願いすることにしました」と久田氏は経緯を述べます。
シーエーシーは短納期での開発となることを理解し、開発手法としてアジャイル開発の 一つである「スクラム」を提案しました。両社が一つのチームとなって開発を進める手法です。鴻池運輸からも関係する社内メンバーの精鋭10名を選抜し、まずシーエーシーの提供する研修プログラムを受講しました。
「プロジェクト参画当初に、それまで議論されていた状況を確認させていただきました。当時は迫ってくる納期に対して溢れる要件といった状況で、とても間に合わないと思ったことを記憶しております。そこで、MVP ※1 の概念を取り入れることを提案いたしました。その上で、スクラムの考え方やチームワークの大切さなどを学んでもらい、メンバーの意識を醸成することから始めました」。
こう話すのは、スクラムマスターとして指導的な役割を果たしたシーエーシーの平野哲也です。さらに関係者が、意見やアイデアを出し合うブレストを実施し、目指すべきゴール、それをどうやって実現していくかを互いが腹落ちするまで話し合いました。
シーエーシーはMVPの作り方に関するワークショップを開催し、業務部門のメンバーにも参加してもらう形で、膨大な数の要件を一つ一つ確認し、最も大事な機能を洗い出すことで、MVP を定義しました。この作業は、業務要件とシステム要件を同時にすり合わせていく必要があるため、何度もワークショップを開催し、慎重に全員が納得のいく結果を見つける必要があります。「基礎から実践までのトータルなサポートにより、アジャイル文化の醸成とメンバーのスキルアップが図れました」と上月氏は評価します。
- 1 MVP(Minimum Viable Product): 必要最低限の機能で最大限の価値が提供できるプロダクトを作成する手法で、スクラム開発で取り入れられる概念
3.アジャイル開発でSalesforceのメリットを最大化
開発を始めるにあたり、シーエーシーからアジャイルコーチとプロダクトオーナーのサポート役を追加配置し、鴻池運輸とシーエーシーの二人三脚でしっかりとプロジェクトを遂行できる体制を築きました。
「MVPの評価は2 週間サイクルで行いますが、現場から改善や要望が数多く上がってきます。何を優先的に対応すべきかの判断は、容易ではありません。毎週2 時間程度行う業務部門メンバーを交えた定例会にシーエーシーのエンジニアにも参加してもらい、判断をサポートしてもらいました」(上月氏)。
シーエーシーの技術力も高く評価しています。Salesforceのメリットを活かすには、標準機能をフル活用することがポイントです。個別の作り込みを行うと、使い慣れたUI(ユーザーインターフェース)やSalesforceの良さが損なわれてしまいます。 この課題に対し、シーエーシーはグループの力を結集し、Salesforceに精通したエンジニアをアサインしました。
「標準機能を使ってフロントエンドには極力変更は加えないようにし、どうしても標準機能だけでは実現できないものは、バックエンドの処理を工夫して個別に作り込むことで対応しました」と平野は振り返ります。改善要望など現場の意見の集約も、シーエーシーが手厚くサポートしました。
プロジェクトの構想策定キックオフは2020年6月にスタートし、開始から2年足らずでサービスをリリース。実際の開発期間はわずか5か月間でした。「もしシーエーシーの伴走がなく、ウォーターフォール型の開発を選択した場合は、開発期間だけで2年はかかっていたでしょう。アジャイル開発を正しく進められたからこそ、スピーディなローンチが可能になりました。サポート力の高さに感謝しています」と久田氏は語りました。
KBXは、既に国内6 社の企業に利用されています。顧客である物流担当者からは「情報が可視化され、案件を管理しやすくなった」「チャットによってコミュニケーションがシンプルで、業務がスピーディになった」という声が上がっています。
今後は見積もりサービスなどの追加リリースを予定しており、海上輸出入業務全般のオンライン化を実現します。更に、航空輸出入業務のオンライン化とサービスのグローバル展開を見据えています。
それとともにデータの利活用も進めます。モノを届ける上で重視するのはスピードか、コストか、安全か。「何を優先させるかによって、最適なルートも変わります。KBXをはじめとするデジタルサービスのデータを活用し、お客様にとって最適な物流計画や配送ルートを個別に提案したいと考えています。提案力を強化し、国際物流のコーディネーターを目指していきます」と上月氏は前を向きました。
シーエーシーは、鴻池運輸様のデジタル改革が物流業界に良い旋風を巻き起こすべく、共に闘い最大限の価値を提供していきます。
- 取材:2022 年6月
- 記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標です。
鴻池運輸株式会社
大阪本社:大阪市中央区伏見町4-3-9
東京本社:東京都中央区銀座6-10-1
設 立:1945(昭和20)年5月30日
資 本 金:1,723 百万円(2022 年3月31日現在)
従業員数:連結 約23,000名 単体 約 14,000名(2022年3月31日現在)