三井物産グローバルロジスティクス様
(自動封函時の異常検知AIアプリケーション)
自動封函時の異常を検知するAIアプリケーションの導入により、
封函作業の負担軽減と品質向上、効率化を実現
課題
- 自動封函機で稀に発生する発送箱の不適切な状態への対応の作業負荷が大きい
- 不適切な状態を外観からは確認できずに発送してしまうケースも稀にある
導入効果
- 異常検知で自動封函機を即座に停止し、不適切な状態の箱の送付防止が可能になり、封函作業の品質が向上
- 送り状貼付前に当該箱をレーンから取り除けるため、再封函時にWMS(倉庫管理システム)更新等を行う必要がなくなり、再封函作業が効率化
- AIモデルが学習を繰り返すことで、箱デザイン等の変更の影響を低減
はじめに ― 三井物産グローバルロジスティクスについて
三井物産グローバルロジスティクス株式会社(以下 MGL)は、三井物産グループの中核物流会社です。
国内ではアパレル・健康食品・化粧品などの消費財物流や合成樹脂などの化学品物流、国際では鉄鋼製品輸送や機械・設備輸送を主力として、倉庫・物流に関する幅広い事業を展開しています。
三井物産やグループ会社のネットワーク・情報力を活かし、物流の垣根を越えた「ロジスティクス+α」のサービスに強みを持ちます。また、IoTやロボティクスなどを用いたスマートロジスティクス実現にも積極的に取り組んでいます。
導入の背景と課題
MGL横浜本牧倉庫では、荷主の商品(健康サプリメント商品)を顧客に発送する業務を受託しています。商品を梱包して顧客に発送する箱の数は、繁忙期で1日あたり4~5万箱に及ぶため、同倉庫では封函や送り状の貼付など発送に関わる作業の大部分を機械により自動化しており、封函作業には自動封函機が導入されています。
自動封函機は1時間に4,000箱程度という高速で封函することができますが、稀に不適切な状態で封函されることがあり、MGLでの課題となっていました。例えば、発送箱の内フラップ(内フタ)が外側に折れた状態で封函されたり、封函された発送箱がひしゃげた状態となったりするなどのケースがあります。
これらの場合、不適切な状態は外観から確認可能なため、その後の人員による作業工程で気づくことができ、再封函されます。しかし、封函した後に送り状の貼付を行うレーンとWMS(倉庫管理システム)の関係上、既に送り状が発送箱に貼付され発送可能な状態となってからの手戻りとなるため、単純に箱を入れ替えるだけではなく、WMSの状態を変更した上で改めて封函機にかける等の作業負荷がかかっていました。
また、箱に投入した納品書が、しわくちゃになるなど変形や破損した状態で封函されることがあります。この場合は外観からは確認できず、そのまま発送してしまうことも稀に発生していました。
CAC独自のAIモデルおよびアプリケーションの開発
この課題を解決するため、MGLとCACは、2020年3月から4ヵ月にわたり、高速で動く発送箱をカメラ画像でとらえ、状態の適切/不適切の判定を行うAIモデルの開発と精度検証をPoCプロジェクトで実施しました。
CACは、AIモデル開発に必要な数千枚の画像データ収集、自社ツールによるアノテーション(教師データの作成)、高速で稼働し、かつ精度の高いAIモデル開発で必要な基本構造(バックボーン)選定、パラメーターのチューニング等を実施しながら、独自のAIモデル開発を行いました。
AIモデル開発での課題と解決
AIモデルの開発に当たっては、いくつか課題がありました。
発送箱は、色や大きさにより、複数の種類がありました。このように種類が異なる箱の適切/不適切な状態をAIでどのようにカテゴライズするかが、処理速度や運用時のメンテナンス性に大きく影響を与える要素となるため、いくつかのパターンでAIモデルを開発して検証を行いました。
画像データの収集の際は、通常の封函時には不適切な状態の箱は発生しないため、想定される不適切な状態をパターン化して意図的にその状態を作り出すことで、必要な画像データを収集しました。
また、高速で動く発送箱をブレることなく高画質で撮影するカメラの選定では、Webカメラやハイスピードカメラ、アクションカメラ等を検証し、最適なカメラを選定するよう努めました。
このような課題の一つ一つをクリアして、PoCで精度に大きな問題がないことを確認しました。
さらに、本番導入を想定した検証を2ヵ月程度行った結果、AIモデルによる判定とアプリケーションのロジックとを組み合わせて稼働させることにより、本番導入時に無用な誤検知を抑制することが可能と判断しました。AIモデルによる判定を100%正確にすることは困難なため、アプリケーションに工夫をすることで、20fps程度の高速で画像処理し、複数枚のAIモデルの判定結果を基に異常を検知するロジックを整備しました。
その後、異常を検知した際に自動封函機を停止する機能、精度を高めるために必要となるデータの収集機能等を持たせた本番用アプリケーションの開発を行い、2021年4月に導入に至りました。
おわりに ― アプリ導入後の効果と今後の展開
本AIアプリケーションの導入により、MGL横浜本牧倉庫では不適切な状態の発送箱を検知した際に自動封函機を即座に停止し、不適切な状態の箱の送付を防止することができるようになり、封函作業の品質向上につながりました。また、送り状が貼付される前に当該の箱をレーンから取り除くことができるようになったため、再封函時にWMSシステムの更新等を行う必要がなくなり、再封函作業の効率化にもつながりました。
また、運用開始以降に複数回、発送箱のデザインや色、大きさの変更がありました。まったく色やデザインが異なる箱は、AIモデルの精度に影響する場合があるため、AIモデルの再学習により対応しています。その際、既に学習手法や環境が整備されているため、再学習は非常に短期間で実施することが可能になっています。このように、デザイン/色/大きさの異なる箱についてAIモデルの再学習を重ねることで、それらの影響を受けにくいAIモデルとなり、箱の変更が行われるごとの影響は減少してきています。
MGLでは、同じ荷主の商品を、横浜本牧の倉庫以外で神戸の倉庫でも取り扱っているため、神戸の倉庫にも同様の仕掛けの導入を予定しています。
- 本記事の内容は2021年10月時点での情報です。