完全リモートワークによるオフショアアジャイル開発のチャレンジ
― コロナ禍に立ち向かう「秘書室システムOlive」リニューアル ―

2022年7月、シーエーシーは秘書業務のDX化支援の一環として「秘書室システムOlive」の新バージョンをリリースしました。コロナ禍の中、リニューアル開発はオフショアアジャイルにてデザインと機能の全面刷新を実現しました。プロジェクトの責任者と部門長がオフショアアジャイル採用の狙い、課題と成果を語ります。

1.オフショアアジャイルを採用した理由

産業ソリューション第二部長 早川 康司
株式会社シーエーシー 産業ビジネスユニット
産業ソリューション第二部長 早川 康司

プロダクトオーナーとしての知見の獲得

早川: プロダクトオーナーはアジャイルプロジェクトの舵取り役と言われるほど重要な役割ですが、アジャイル経験が少ないお客様からは、我々IT企業に対してプロダクトオーナーのサポートや補完的な対応を求められる事も多くあります。そこで、我々自身も開発スキルだけでなく、プロダクトオーナーとしての知見を持つべきと考えています。

オフショアアジャイルの場合は日本側がプロダクトオーナー、オフショア側が開発を担当する構成ができますので、ユーザー企業様の立場になるプロダクトオーナーを経験できる良い機会と考えました。


グループシナジー創出の期待

早川:また、シーエーシーグループは国内外に様々なグループ会社があり、それぞれの持つ強みを活かしながら相乗効果を発揮することに取り組んでいます。インドネシアにあるMitrais社はアジャイル開発特化企業であり、10年以上のアジャイル開発経験を蓄積して、オーストラリアの企業などにもサービスを提供しています。そこで今回はMitrais社に協力してもらい、優秀なアジャイル技術者とのオフショア開発を行う事で、国内メンバーのスキルアップとオフショアアジャイル体制作りを図りました。

2.オフショアアジャイルプロジェクトの課題と成果

株式会社シーエーシー 「秘書室システムOlive」責任者 情野涼子
株式会社シーエーシー
「秘書室システムOlive」責任者
情野 涼子

コロナ禍中のリモートワークチャレンジ

情野:アジャイル開発では緊密なコミュニケーションが重要ですが、今回はコロナ禍によりメンバー全員が自宅ら開発を行わざるを得なかったため、私たちにとっては大きなチャレンジでした。

すべてのコミュニケーションはオンラインで実施するので、最初は若干遠慮する雰囲気もありましたが、仕事以外にチーム交流や雑談ベースのコミュニケーション機会を積極的に設けることで、徐々に良好な信頼関係を築くことができました。また、SlackやJIRAなどのツールを使用するようにルール化して、確認漏れや認識齟齬の発生を抑止できました。

全体的にリモートワークでのアジャイル開発は通常よりコミュニケーションに工夫が必要でしたが、しっかりと解決策を講じれば国内開発と同じ成果を達成可能であることを、今回のプロジェクトを通じて実感しました。


オフショアアジャイルならではの課題

情野:Mitrais社はインドネシアにあり、大きな時差や文化差異もほとんど感じなかったのですが、休日の調整は一つの見落としポイントでした。アジャイル開発では一緒に作業するため、片方が休日に入ると予定の作業が進まなくなる可能性が高いので、長い休みの場合はお互いに合わせて一緒に休暇を取得するよう調整しました。

また、仕様の伝達、特に日本独特のビジネス習慣や業務内容の説明には、より工夫が必要でした。設計書をほとんど作成しないアジャイル開発においては、バックログだけでは説明しきれない複雑な機能について仕様書を作成したり、JIRAやConfluenceなどに情報を整理して格納しナレッジ化するなど、様々な工夫をしました。

プロダクトオーナーの注意すべきポイント

情野:私は今回、初めてプロダクトオーナーとしてチームに参加し、ユーザー様の立場と役割を実感でき、これまで開発側の立場から気づけなかった問題点も見えるようになりました。

①一つのチームでゴールに向かう

アジャイル開発では一つのチームとして仕事をしますので、発注側/受注側のような関係性は一切なくなります。プロダクトオーナーはゴールの実現に対する決定権と責任を持つため、常に開発内容と進捗を把握しなければならないし、課題解決に向けてチームメンバーや関係者と向き合いコミュニケーションを取らなければなりません。「お願いします」から「みんなと一緒に取り組む」という意識に変わっていきました。
逆の立場から言えば、私たちは開発チームとしてプロジェクトに参加する際、もっと積極的にプロダクトオーナーを巻き込んで一緒に課題に取り組んでいく姿勢も必要ではないかと改めて思いました。

②臨機応変な対応をするためにプロダクトオーナーに求められるスキル

プロダクトオーナーには、業務やシステムに関する幅広い知識が必要と痛感しています。変化に応じた優先順位付けやバックログの作成はプロダクトオーナーの役割ですが、相応の知識と優先度に関する一定の把握がなければ、実装の優先順位と取捨選択について適切な判断を下すことができません。また開発スピードが速いため、時間をかけて検討する余裕も少ないので、ボトルネックにならないようプロダクトオーナーとして迅速な決断が求められました。

③プロダクトオーナーが心掛けるべきポイント

アジャイル手法を実践する場合、現状に合わせてテーラリングすることも大切だと感じました。
例えば、スクラムガイドではスプリントプランニングはスプリントの起点であると説明されますが、実際にここで初めて作業内容を決めようとしたら時間がかかりますし、決めた内容を実装できない可能性もあります。そのようなリスクを回避するため、リファインメントになるべく時間をかけてインプットとなるバックログの見直しを行ったり、技術的な懸念事項を事前調査したり、実装可能な内容を整理してからスプリントプランニングに持っていくように工夫することで、より効率的になりました。
また、スプリント毎の目標に対する達成感はチームのモチベーション向上に繋がっていますので、スプリントレビューは成果物の確認やフィードバックを行う場だけではなく、チームメンバーの成果を評価しモチベーションを高める場として利用するよう心掛けました。複数のスプリントを跨いで大きな機能を開発する場合も、モチベーション維持のために、途中でスプリントレビューを実施するよう工夫しました。

課題を乗り越えてノウハウ蓄積を実現

早川:このプロジェクトではオフショア対応やプロダクトオーナー担当など初めての経験が多くありましたが、その分、結果的に大きなナレッジの獲得ができたと評価しています。実際にプロダクトオーナーの知見は別のプロジェクトで実践されていますし、今後も培ってきた知識や経験を最大限に活かしていきたいと考えています。

3.アジャイル開発における将来展望

早川:昨今、DX実現の鍵は内製化と考えるユーザー企業様は増えていますが、人材育成や開発ノウハウの蓄積に時間を要するため簡単ではありません。その課題解決に向けて、スピーディーかつ柔軟なアジャイル開発は有効な手段だと考えます。

シーエーシーでは2018年からアジャイル開発に本格的に取り組みはじめ、アジャイル標準や各種ガイドを整備し、全社共通基盤となる「DXプロセス知識体系」を確立しています。また、今回のようなプロジェクトを通じてトータルにアジャイル実践ノウハウを継続的に蓄積し、ニアショア/オフショアアジャイル開発体制も提供可能です。

これまで蓄積してきたエンタープライズシステム開発ノウハウと柔軟なアジャイル支援体制により、お客様のDX戦略の実現を共に取り組んでいきたいと考えます。

CACオフショアアジャイル開発
  • 取材:2022年8月

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