最新のITで日本の教育に変革を――
JISA中学校デジタル化プロジェクトでの感情認識AI活用
学校教育分野でのIT活用は着実に進んでいます。
こちらでは、CACが最新IT技術を活用した日本の教育高度化の取り組みへの参画についてレポートします。
JISA中学校デジタル化プロジェクト
CACは、一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)による特別プロジェクト(革命プロジェクト)の1つである「中学校デジタル化プロジェクト」に2016年から他社とともに参加しています。
このプロジェクトの最終的な目標は、鳥取県にある私立中高一貫校の学校法人鶏鳴学園 青翔開智中学校・高等学校(青翔開智)を起点に日本の中学校・高校におけるデジタル技術を活用して教育を高度化すること、そして、それを通じて未来の日本を背負う人材の恒久的輩出の仕掛けづくりを行なうこと。
その目標のため、青翔開智は、ITを活用した教育の高度化を実践して、他の中学校・高校でも利用できる汎用的な教育モデルを作成するための「ペルソナ校(モデル校)」として位置づけられています。
青翔開智中学校・高等学校の「探究」授業
青翔開智の設立は2014年、生徒数は中学生・高校生計200名です(2017年5月1日現在)。
同校では、全生徒がタブレットPCを持ち、授業や連絡でもITが積極的に活用されています。また、図書の活用も活発で、学校の中心に図書室が設置され、また、学内の至る所に書籍棚が見られるなど、ITと書籍の双方を使いこなすことで生徒の読む力、調べる力を育んでいます。
この青翔開智の特徴的な授業が「探究」です。
「探究」の授業では、研究を広げ、深めていくことで、生徒自ら学ぶ手法を身に付けることが目標にされています。青翔開智の「探究」は「SEIKAI6.1」と呼ばれる独自のフレームワークに基づいて行われています。
「SEIKAI6.1」の基本的な進め方は、テーマ設定、情報収集、情報分析、論文執筆、プレゼン、評価、再度テーマ設定に戻る、という形式。
「探究」の具体例として、青翔開智の中学2年生は、企業の課題解決提案を行ないます。チームで企業を訪問して、その企業の活動を体験し、体験を通じて発見した内容をもとに、チームで考えたアイデアを訪問した企業の社長にプレゼンテーションを行なうのです。
また、高校生では、テーマ設定を自分自身で行ないます。そのテーマに基づいて、調査研究を実施し、プレゼンテーションや論文の執筆などの活動も行ないます。
「探究」の見える化『探究通信簿』
本プロジェクトでは、関係者へのヒアリングやディスカッション、実際の授業風景の見学などを通じて、まず「探究」の授業が、その独自性ゆえに評価方法に課題を抱えていることに着目しました。
「探究」は、あるテーマを生徒に与えて、デザイン思考を使いながら解決していくため、定量的・定性的な評価が非常に難しいのです。
また、「探究」は長い時間をかけて実施するため、一連の探究の授業の中での現在の達成状況や進捗状況を測る方法がないことも課題でした。
そこで、本プロジェクトでは探究の授業を定量化し、分析を可能にする『探究通信簿』のプロトタイプを作成しました。2017年には実際の授業でモデルを利用することでブラッシュアップを行ない、データを収集し始めています。
本プロジェクトの詳細はCAC技術レポート誌「SOFTECHS」の以下の記事をご覧ください。
「探究」への最新IT技術活用
本プロジェクトでは、「探究」を糸口に、さらなる教育の高度化にチャレンジするため、最新のIT技術を活用して、データの取得や分析にも取り組みました。
最新のIT技術活用に際して、本プロジェクトでは青翔開智の「探究」の授業でプレゼンテーションが重要な要素となっていることに着目しました。
生徒のプレゼンテーション能力の向上や、プレゼンテーション能力に必要な要素の分析にITを活用すれば、教育の高度化に貢献できると考えたのです。
この目的に活用できると考えた最新IT技術が、感情認識AIです。
感情認識AIによるプレゼンテーション評価の試み
本プロジェクトで、生徒のプレゼンテーション分析に利用したのが、米Affectiva社が開発した感情認識AI「Affdex(アフデックス)」です。
Affdexは、CACがAffectiva社の唯一の日本正規代理店として販売しています。
Affdexは、カメラを通して対象の顔を認識し、リアルタイムにターゲットの顔の筋肉の僅かな動きをキャッチして、感情をデータ化・分析します。
Joy(喜び)、Engagement(表情の豊かさ)、Disgust(嫌悪)など様々な感情に関係するデータを取得することができます。
また、Affdexは、世界87ヵ国以上から収集された約800万人の顔画像データを保存・使用しています。この世界最大級のビックデータの活用により、より正確な感情認識が可能です。
感情認識AI「Affdex」の詳細は以下をご覧ください。
人の感情を認識するAI「Affdex」|Affectiva×シーエーシー
Affdexでは、笑顔や不快そうな雰囲気も数値化されます。
例えば、一般的に日本人は笑顔で話すのがうまくないと言われますが、プレゼンテーションの評価には大きな影響を与えます。そのため、笑顔を意識しながらプレゼンテーションを行なう訓練にAffdexのデータが利用できるのではないかと考えました。
そこで、本プロジェクトでは、Affdexの利用により生徒のプレゼンテーション能力を向上させることができるのではないか、という仮説を立てて実証を行ないました。
まず、「探究」の時間に行なったプレゼンテーション動画から読み取った生徒の表情をAffdexでデータ化し、グラフを解釈することでプレゼンテーションの評価・分析を行ないました。
この分析結果を、普段から生徒を見ている青翔開智の先生方にフィードバックした結果、分析に対して納得感があるという評価を得ました。
これにより、青翔開智でのプレゼンテーション評価にAffdexを利用し、生徒のプレゼンテーション能力向上に活用可能と判断しました。
リアルタイムでのプレゼンテーション分析に挑戦
次に、より実践的な試みとして、イベント「中学校デジタル化in青翔開智」(2017年11月6日)でのリアルタイムのプレゼンテーション分析にAffdexを利用しました。
このイベントは、本プロジェクトのこれまでの成果発表のイベントとして、東京や鳥取の関係者を青翔開智に招いて行なったものです。
このイベント内で、青翔開智の生徒たち3組のプレゼンテーションを実施し、Affdexでのリアルタイムの感情分析を行ないました。プレゼンテーションの内容は、これまで探究の授業を通してチームで作成した企業に向けた提案です。
生徒がプレゼンテーションしている姿をWebカメラで撮影しつつ、Affdexでリアルタイムの感情解析を行ないます。プレゼンテーション資料は舞台正面のスクリーンに表示し、左側の別の画面には表情解析の数値情報を常時グラフで表示しました。生徒の皆さんは分析されていることを認識してはいたものの、特に気にする様子もなく堂々とプレゼンテーションしていました。
プレゼンテーション分析完了後、その場でプレゼンテーションについてのフィードバックを行ないました。生徒の皆さんが全般的に前向きにプレゼンテーションをしていた様子や、スタート時に緊張している様子、iPad操作のサポートが失敗したときには、さまざまな感情が表示されるなど、その分析内容は参加者が納得できる結果となりました。
また、イベント時には、プレゼンテーションの内容を音声認識し、リアルタイムでテキスト化を行ないながら表示する試みも行ないました。ある程度の辞書登録は事前に行なっていましたが、音声のリアルタイムでのテキスト化は実用的なレベルになっています。
その後にテキストマイニングすることで様々な情報を分析できるようになることを期待できる結果となりました。
今後の展開
2016年に開始した本プロジェクトは現在も継続していています。
探究通信簿は実際の探究の授業を通して、データを蓄積しつつ実証を行なっています。今後、収集データを活用した分析を進めていく予定です。
プレゼンテーション能力向上や分析への感情認識AIの活用は、今後は、聴衆など複数オーディエンスの感情分析のデータや、アンケート結果と組み合わせて分析することで、プレゼンテーションの向上の可能性について検討していく予定です。
本プロジェクトのペルソナ校である青翔開智は、その取り組みが評価され、2018年に文部科学省が指定する理数系教育に重点を置いた研究開発を行なう「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に内定しました。
CACは、今後も新たなIT技術を活用して集めたデータの分析などを通じて、デジタル技術を活用した教育の高度化に貢献していくことを考えています。
※本プロジェクトのその後展開は、CAC技術レポート誌「SOFTECHS」Vol.38の以下の記事で紹介しています。
JISA中学校デジタル化プロジェクト2019参加レポート ~探究通信簿の作成とITを活用した教育の高度化~