RPAの導入プロセスを押さえる
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、人手で行ってきた事務作業をソフトウェアロボット(デジタルレイバー)に置き換えて自動化する概念であり、ツールです。導入のハードルが低いために活用は容易と思われがちですが、本気で導入しようと思えば、考えるべきことはたくさんあります。
そこで、自社内での部署横断的なRPA導入と幅広い業種の顧客を対象としたRPA事業の双方を通じて、多くのRPAエンジニアを育成し、多様なニーズに対応してきた株式会社シーエーシー(CAC)の経験とノウハウをもとに、効果的なRPAの導入プロセスをご紹介します。
そもそもRPAはどうやって自動化しているのか
RPAは、デスクワーカーがパソコンを操作して行っている作業をソフトウェアロボットに模倣させる仕組みだと言えます。RPAに業務を覚えさせる技術としては次のようなものが挙げられます。
- オブジェクト認識(アプリケーションのソースを取り込んで、表計算ソフトのセル、チェックボックスといった操作対象オブジェクトを特定する)
- 画像認識(画面上の表示項目などをキャプチャして操作対象オブジェクトを特定する)
- キーボード/マウス操作記録(Tabキー を4回押して、そのあとにEnterキーを押す、など)
- 座標認識(画面上の位置情報(座標軸)を利用して操作対象箇所を記録する)
こうした技術を使って特定した対象を、RPAに組み込まれたルールエンジンが操作することにより、業務を自動で実行しています。
RPAは既存システムを活かせる
RPAで実現可能な事務作業の自動化は、基本的には従来からの”システム化”という方法でも実現できます。にもかかわらず、RPAが注目されている理由はいくつかあります。
まず、既存システムに変更を加える必要がないことが挙げられます。一般的にシステムの改修には多額の費用、手間がかかり、リスクも伴います。その点、既存システムをそのまま活用できるRPAには大きな利点があります。
また、API(アプリケーションインタフェース)で連携できないシステムでも、デスクトップ操作の自動実行という方法でなら、複数のシステムを横断して業務を自動化することができます。
こうした特長により、業務が複雑・少量・多様なためにシステム化の費用対効果が低いと判断され、人手で対応してきた業務を低コストで、かつ短時間で自動化できると評価されたことが、RPAが注目された大きな理由と言えます。
加えて、一般にRPAツールは、GUI(グラフィカルユーザーインタフェース) を使ってプログラミングレスで自動化の設定が行えるので、そのことも魅力とされています。
まとめると、「既存システムを活かし」つつ「低コスト」で「素早く」「手軽に」導入できるとの期待から、注目を集めているのだと言えます。
対象業務の選定が重要
手軽に自動化できるとの期待が大きいRPAですが、トライアルから本格展開に至る前に、想定効果を享受できていない例も見受けられます。そのような場合、対象業務選定の際の考慮が十分でなかった可能性が考えられます。
一般に、RPAが代行できる事務業務は次のとおりです。
- 定型業務(複雑な判断が不要で、手順書に従えば誰でも実施できる業務)
- 繰り返し業務(定期、不定期に関わらず、何度も発生する業務)
- 時間のかかる業務(月間当たりの総対応時間数が多く、手間がかかっている業務)
これらは、いわゆるルーティンワークです。
日本の事務は個別対応的なことに注意
ここで注意が必要なのは、日本の事務業務は、柔軟できめ細やかな、言い換えれば個別対応的なものが多いことです。必ずしも単純作業ではなく、「複雑」「少量」そして「多様」であり、それゆえにシステム化されずに残ってきた面があります。
RPA化業務候補を洗い出そうとすると、そのような、単純とは言えない業務が大量にリストアップされる可能性が高いため、その中からRPAに適合しやすく、かつ想定効果の大きな業務を、まずは選定するのが、早い段階で成果を得るための近道と言えます。
「開発が容易」で「小規模からも始められる」ツールがお勧め
RPAに適したルーティンワークだけでなく、「複雑」「少量」「多様」な業務を自動化したいというニーズも強くあります。その場合、投資に見合う効果を得るには複数業務を自動化する必要があるので、「開発が容易」で「小規模からも始められる」ツールを選ぶことがポイントになります。
そのようなツールを使い、一部の業務から始めて順次拡大していくという展開方法(スモールスタートからスケールアップ)は、CACの経験から見て、RPA化の成功確率を高めます。
具体的なツール名を挙げると、スケーラビリティを重視するならUiPathが有力な選択肢です。自社にRPA推進組織があって、その組織が全社展開をリードしていくような場合は、管理機能とスケーラビリティに特徴のあるツールが力を発揮するでしょう。一方でシナリオの扱い易さを重視するならWinActorが有力な選択肢です。自社でシナリオを内製し、各部門が自律的にRPAを推進する場合は、シナリオが扱い易いほうが有利でしょう。
先人の知恵、すなわち方法論も活用したい
適切なツールを選んだとしても、まったくの白紙からRPA化の対象業務を選定していくのは効率的とは言えません。その点、たとえばCACのRPA導入・運用サービスでは、実際の導入事例を踏まえて整備したRPA導入フレームワークにおいて、「業務候補選定シート」や「効果予測シート」を利用して、導入効果の高い業務を素早く選定することを可能にしています。初めてRPAを導入する際は、このような、あらかじめ整備された導入プロセス(方法論)を参照しながら進めるのが効率的です。
基本的な導入プロセス 業務の選定と効果予測
次に、CACのRPA導入フレームワークを参考にして導入工程の概略をご紹介します。まず、業務の選定と効果予測のフェーズで実施する主なタスクは、次のとおりです。
(1) 自動化する業務候補の選定
業務候補の選定は、自動化対象候補業務をリストアップすることから始め、その業務の特性がRPAに適合しやすい業務を選定候補とします。
(2) 業務候補の効果予測/検証
選定された業務候補ごとに、詳細な作業手順に掘り下げて、自動化の可否を判断し、作業工数やリードタイムなどの想定削減率を算出します。
(3) 使用するRPAツールの選定
RPA製品選定の主要な評価軸は「シナリオ開発の難易度(技術習得およびリリースまでの期間の短さ、保守性の容易さ)」と「スケーラビリティ(スモールスタートして段階的に拡大できるか)」の2つです。
基本的な導入プロセス 初期導入フェーズ
自動化対象の業務を絞り込むと、次に初期導入と本格導入のフェーズに進みます。初期導入フェーズのタスクは、次のとおりです。
(1) ロボットシナリオの作成
シナリオとは、ロボットにどんな動作をさせるかを定義したものです。現行の業務フローおよび手順書に従ったロボットシナリオを作成し、人間が実施している各種作業をロボットシナリオで自動化できることを確認します。
(2) 導入効果(実測値)の測定
RPAツール導入効果を実測値で測定し、計画フェーズで算出した予測値との比較を行い、効果検証を行います。これにより、RPA導入・運用の効率性を確認します。
(3) 本格導入に向けた予行演習の実施
ロボットと共に働く環境を体感し、本格導入に向けた予行演習と運用課題の抽出を行います。
こうした初期導入の段階で自動化の実現性と導入効果の実績値を測定し、導入上の課題とその対策の見通しが立ったら、次は対象エリアを拡大して本格導入に進みます。
ロボットフレンドリー開発で適用範囲が拡大できる
RPA化を進める中で、「RPAがうまく導入できない画面がある」という問題に直面することがあります。レイアウト調整や複雑な入力チェックなどが設定された「人が作業しやすい入力画面」は、ロボットに入力ルールや処理プロセスを認識させることが難しいことが少なくないからです。
そのような場合は、ロボットが処理を自動化しやすいという観点から画面を作り換える、というアプローチがあります。ただし、改修に多くの工数とコストをかけては、「既存システムを活かしつつ低コストで素早く手軽に導入できる」という、RPAの最大の特長が失われかねません。RPA化すれば効果が出るのはわかっているのに、画面改修コストが大きくてあきらめるのは残念なことです。
そんなときは、データベースを元に画面を高速開発するツールの活用が有効です。CACでは、自社開発のAZAREA_Geneというツールを活用しています。こうした高速開発ツール、あるいはローコード開発ツールと呼ばれるものを利用すれば、ロボットフレンドリーな入力系画面を少ない工数で確実に作成することが可能です。高速開発ツールと組み合わせることで、RPAの適用範囲を拡大することが容易になり、全社での本格導入にはずみがつきます。
推進担当者必読の「RPAを一人で始めて、会社を巻き込むコツ」
RPA導入にあたり検討しなければならないことは、ほかにもあります。どこから手をつけ、どこまで視野に入れるべきか、情報収集しながら思案中の推進担当者の方も少なくないでしょう。そういうご担当者に向け、CACでは『15分で読める「RPAを一人で始めて、会社を巻き込むコツ」』を技術レポート誌「SOFTECHS(ソフテックス)」で公開しています。
RPAの導入から実装、運用まで一連の各ステップについて、重要な点やその理由、そして失敗しない進め方を、概念的ではなく具体的にまとめています。RPA導入をご検討中の方にはぜひご一読いただきたい内容です。
本レポートは以下のリンクからお読みいただけます。
CAC RPAワンストップサービス
RPAを導入し、運用して、効果の最大化を目指す。そうした企業向けに、CACでは「CAC RPA ワンストップサービス」の利用を提案しています。このサービスの特長は、次の4つです。
- お客様の抱える課題、RPAに対する期待、システム環境を踏まえて最適なRPAツールを提案します。CACでは「ツールの機能性・信頼性」「日本でのサポート体制」「導入実績の豊富さ」から「UiPath」と「WinActor」のふたつを特に推奨しています。
- 導入/運用のためのフレームワークを利用することで、手戻りのない効率性と、ベストプラクティスを反映させた品質の高さを可能にします。
- RPAの計画からシナリオ実装、ロボット運用、そして適用範囲拡大まで、一気通貫で提供します。
- 高速開発ツールを活用したロボットフレンドリーなシステム開発で、RPAの適用範囲を拡大します。
ベンダーにばかり依存せず、RPAの開発・運用を自走的に行いたい、というケースも少なくないでしょう。そうした企業向けに、RPAのシナリオ開発・保守担当者を対象としたトレーニングコースも用意しています。UiPathについては、CACは「トレーニング・アソシエイト」認定を受けており、公認トレーニングを提供する体制を整えています。
ロボットと人の未来
RPAを適切に活用できれば、企業は、
- 業務処理の時間短縮
- 入力/転記ミス防止による業務品質の改善
- 残業抑止と創造的業務へのシフト
- 同じ作業の繰り返しなどによるストレスからの解放
などのメリットを得ることができます。「働き方改革」にも大いに寄与するでしょう。しかし、そこを最終ゴールと考えるのは勿体ないことです。RPAは、今後はプロセスマイニングツールやAIなど他のテクノロジーと連携して適用の幅を拡げていくことが見込まれています。そのように進化するテクノロジーを継続的に取り込みながら、創造的企業改革を図っていくことをCACは提案します。そのときデスクワーカーは、多様性と個性を生かしたクリエイティブな仕事にさらに集中できるようになるでしょう。
本稿をお読みになり、RPA導入の成功イメージを少しでも具体化して頂けたなら幸いです。