CACのブロックチェーン分野への取り組み
IT専門調査会社であるガートナーは、ブロックチェーンによってサポートされる革新的なソリューションの大半は、今なお実験段階か、限定的な規模の本稼働にとどまっていると2020年7月にレポートしました。確かに、ブロックチェーンは「過度な期待」を経て、その「実用」可能性を各社が見極める段階へと移行したと言えますが、技術的には進化の過程にあり、今後、実用的なユースケースの展開が広がることにより、主流の技術と見做されるようになっていくことでしょう。
国内で公表されるブロックチェーン活用事例の情報はあまり多くはありませんが、エンタープライズ向けブロックチェーンプラットフォームの国内初の商用システムへの活用事例なども出てきています。
こちらでは、開発事例や金融分野以外での利用など、CACのブロックチェーン分野への取り組みをレポートします。
「Corda」初の国内商用システム開発に協力
2020年4月、SBIグループの外国為替取引事業会社SBIリクイディティ・マーケットは外国為替コンファメーションシステム「BCPostTrade」の実運用を開始しました。
BCPostTradeは、従来電話やメールなど手作業で行われていた外国為替取引におけるコンファメーション(取引内容の確認)業務について、オペレーショナルリスクの低減と高いプライバシー保護、さらに改竄耐性の確保を実現したシステムです。
エンタープライズ向けブロックチェーン「Corda」
BCPostTradeの高い信頼性や秘匿性、改竄耐性の確保を可能にしたのが、エンタープライズ向けブロックチェーンプラットフォームの「Corda(コルダ)」です。
Cordaは、国際的な3大ブロックチェーンの1つであり、企業間取引での利用に特化したブロックチェーンプラットフォームです。
Cordaの設計・開発を行うR3エコシステムは、世界各国の300を超える金融機関、規制当局、中央銀行、業界団体、システム・インテグレーターやソフトウェアベンダーで構成されています。Cordaは、他のブロックチェーンのように、トランザクションを全ノードで共有はせずに必要なノード間でのみ共有します。そのため、多くのノードがネットワークに参加していても、その取引の当事者間でのみデータが共有され、プライバシーや安全性を担保する仕組みとなっているのです。
CACがCordaパートナーとして短期間のリリースに貢献
CACは、BCPostTradeの開発においてCordaパートナーとして、Cordaによるシステム化検討やシステム設計・実装・テストなどで協力しました。Webアプリケーションサーバーの構築、Cordaサーバーの構築、そしてアプリケーション開発(Webアプリ、CorDapps)などを行い、アジャイル開発による約3ヵ月という短い開発期間で、Corda初の国内商用システムの複数ユーザー企業によるUAT(受け入れテスト)・実運用リリースに貢献しました。
ブロックチェーンによるスマートコントラクト保険の実証実験に参画
2018年には、あいおいニッセイ同和損害保険、ソラミツとともにブロックチェーン技術を利用したスマートコントラクト保険の実証実験を実施しました。
スマートコントラクトとは、ブロックチェーン技術を活用した契約の自動化を指します。この実証実験では、ペット保険についての損害保険契約の申込、引受審査、再保険取引、事故通知、保険金審査・支払機能の大部分を自動化できるよう構築しました。保険契約をスマートコントラクトとして取り扱うことで、各手続きが発生と同時に電子的契約に基づいて自動で執行されるため、ペーパーレスで、さらに手作業を極力経ずに取引が完了します。この仕組みにより、保険の利用者は保険への加入や保険金請求、保険料の支払いや保険金の受取りをスピーディーに行えます。
システム基盤に複雑なコーディングを必要としないHyperledger Irohaを用いたこと、および既存システムと切り離して構築したことから、3ヵ月という短期間でシステムを構築できました。
エンゲージメントトークン発行システム「KOUKA」を開発
CACが開発した「KOUKA」は、ブロックチェーン技術を活用したエンゲージメントトークン発行システムであり、社内外での人と人とのつながりを可視化できるツールです。
2017年からブロックチェーンを利用したトークンの発行・流通環境を構築し、実際にブロックチェーンアプリケーションを運用して、社内での実証実験・評価を行ってきました。現在、KOUKAのブロックチェーン基盤にも前述のCordaを利用し、社内外での導入が行われています。
KOUKAは、社内やプロジェクト内外で貢献した人や助けられた人にリアルタイムの感謝の気持ちやスキル評価としてトークンを送受信しあうことができます。これにより、人やプロジェクト、組織におけるつながりが可視化でき、トークンの送受信を通して、組織間の活性度の把握、目立たないけれども貢献度が高い社員の発掘等も可能になります。
KOUKAを活用することにより、評価の公正化・公平化、マネジメント業務の効率化、スキル管理の適正化などのメリットが見込めます。また、プロジェクトや組織などの人のつながりを可視化するため、非対面のコミュニケーション機会が増加するコロナ禍におけるコミュニケーション活性化といった効果も期待できます。
教育機関におけるブロックチェーン教育と活用を支援
CACは金融機関などでのブロックチェーン技術の活用だけでなく、高等学校などの教育機関でのブロックチェーン教育や活用の支援も行っています。
CACは一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)の中学校デジタル化プロジェクトに参画しています。デジタル技術の活用による教育の高度化を目指すこのプロジェクトのモデル校「青翔開智中学校・高等学校」(鳥取県)において、CACの技術者が、ブロックチェーンを使った校内通貨の実証実験など同校学生の研究支援や、アフリカ・ガーナのマーケットにおける課題をブロックチェーン技術で解決するテーマ研究の支援などを行っています。
また、2020年には同校でのブロックチェーン教育のオンライン授業に協力し、当社技術者が、ブロックチェーンのユースケース紹介や技術的な仕組みなどを学生にも理解しやすいよう説明しました
CACとブロックチェーンの今後は
以上、公表できる範囲で実績をご紹介しました。
CACは、従来から金融機関向けのシステム開発を得意分野にしており、ブロックチェーン技術には2016年からFinTech(フィンテック)の中核技術の1つとして本格的な取り組みを開始した経緯があります。
当初は、ブロックチェーン推進協会(BCCC)やBlockchain-Hubといった業界団体への加入や、国内初のLinux Foundationのオープンソース・ブロックチェーン基盤開発プロジェクト「Hyperledger Iroha」への開発パートナーとしての参画など各種の団体やプロジェクトでの活動によりノウハウの蓄積と技術者育成に努めました。
その後、金融機関を始めとする様々なブロックチェーン活用の支援の経験から、ブロックチェーンビジネスやシステム開発についてのポイントも分かってきました。例えば、「小さな業務からスモールスタートする」「保守・運用の責任範囲の明確化」「ブロックチェーン基盤ベンダーからのサポート体制の重要性」といった点です。
こうした知見は、今後のシステム開発においてブロックチェーンでの開発をまず検討する、「ブロックチェーンファースト」の観点での検討の際に有効になると考えています。
金融機関を始めとした、様々な業界や業種でブロックチェーン活用によるビジネス革新を強力に支援するために、今後もCACでは技術の開発や活用の取り組みを進めていきます。
[参考文献]